こんにちは。江東区砂町の東砂内科クリニック、院長の渋田です。
最近はスマートウォッチや指輪型のデバイスで、寝る前や睡眠中の心拍数を確認される方が増えました。
そのため外来でも、「寝る前になっても心拍数が下がりません」「睡眠中の心拍数が高めで不安です」「何か病気が隠れているのでしょうか」といったご相談をいただくことがあります。
心拍数は、その日の体調やストレス、飲酒、カフェイン、食事、入浴、運動のタイミングなどでも変わります。ですから、数字が一度高かっただけで、すぐに深刻な病気と考える必要はありません。
ただし、寝る前の心拍数が高い状態が続く、睡眠中の心拍数がなかなか下がらない、夜のあいだに何度も急に上がる、さらにいびきや日中の眠気を伴うといった場合には、単なる疲れだけではなく、睡眠の質の低下や睡眠時無呼吸症候群(SAS)が関係していることがあります。
睡眠時無呼吸症候群は、「いびきがうるさいだけ」の病気ではありません。眠っている間に呼吸が止まったり浅くなったりすることで、体は何度も酸素不足と緊張状態をくり返し、心拍数や血圧が上がりやすくなります。
そのため、寝る前や睡眠中の心拍数の変化は、睡眠の質や呼吸の異常に気づくきっかけになることがあります。
今回は、
- 寝る前の心拍数の目安
- 睡眠中の心拍数との違い
- 寝る前の心拍数が高い原因
- 睡眠時無呼吸症候群と心拍数の関係
- 受診したほうがよいサイン
についてお話ししていきます。
寝る前の心拍数の目安は?高いとすぐ異常なの?
まず知っておきたいのは、寝る前の心拍数には個人差が大きいということです。
一般的な成人の安静時心拍数は、1分あたり60〜100回程度がひとつの目安です。
ただし、寝る前は必ずしも「完全な安静時」ではありません。お風呂上がりだったり、夕食後だったり、スマホを見ていたり、考え事をしていたりして、まだ体が活動モードのままになっていることがあるからです。
そのため、寝る前の心拍数が日中の安静時よりやや高めに出ること自体は珍しくありません。
大切なのは、他人の数字と比べることよりも、普段の自分と比べてどうかを見ることです。
たとえば、
- 以前より明らかに高い状態が続いている
- 横になってしばらくしても下がりにくい
- 動悸や息苦しさを伴う
- 寝ても疲れが取れない
といった変化がある場合は、少し注意してみたほうがよいでしょう。
睡眠中の心拍数の目安は?寝る前の心拍数との違い
寝る前の心拍数と、睡眠中の心拍数は、同じ「夜の数字」でも意味が少し違います。
寝る前は、まだ休息の準備段階です。
一方、睡眠中は本来、体が回復に向かう時間で、特に深いノンレム睡眠では副交感神経が優位になり、心拍数は自然に下がっていきます。
睡眠中の心拍数は40〜60回程度まで下がる方も珍しくありませんし、運動習慣がある方ではさらに低めに出ることもあります。
ただし、レム睡眠では夢や自律神経の変動により、一時的に心拍数が上がることがあります。つまり、睡眠中の心拍数は一晩中ずっと一定ではなく、睡眠の深さに応じて波のように変動するのが自然です。
ですから、見るべきなのは単発の数字ではなく、
- 寝る前から眠りに入るまでに心拍数が下がっているか
- 一晩の平均心拍数が高すぎないか
- 急な上昇が何度も起きていないか
- その状態が続いていないか
といった流れです。
寝る前の心拍数が高い原因としてよくあるもの
寝る前の心拍数が高いと、「心臓が悪いのでは」と不安になる方もいらっしゃいます。
もちろん病気が隠れていることもありますが、まずは日常の中に原因がないかを見ていくことが大切です。
ストレスや不安で交感神経が高ぶっている
考え事が多い日や、緊張が続いた日、不安が強い日は、交感神経が高ぶって心拍数が下がりにくくなります。
また、「心拍数が高いこと自体が気になってさらに緊張する」という悪循環も起こりやすく、数字を何度も確認するほど眠れなくなる方もいらっしゃいます。
カフェイン・飲酒・喫煙の影響
夕方以降のコーヒーやエナジードリンク、濃いお茶などは、寝る前まで作用が残ることがあります。
また、アルコールは一時的に眠気を誘っても、夜の後半に交感神経を刺激して心拍数を上げやすくすることがあります。喫煙も同様に心拍数を上げる方向に働きます。
食事・入浴・運動のタイミング
就寝直前の食事、熱いお風呂、長風呂、遅い時間の運動なども、体が休息モードに入りにくくなる原因です。
「寝る前なのに体の中がまだ動いている」状態だと、心拍数は下がりにくくなります。
発熱・脱水・貧血など体調の影響
体調不良があると、体は必要な酸素や血流を保とうとして心拍数を上げます。
発熱、脱水、貧血、甲状腺の病気などでも、寝る前の心拍数が高くなることがあります。
睡眠中の心拍数が高いときに考えたいこと
寝る前だけでなく、睡眠中の心拍数が高めで持続する場合は、体がしっかり休めていない可能性があります。
睡眠中の心拍数が高い背景としては、
- 睡眠が浅い
- 夜中に何度も覚醒している
- 飲酒やストレスの影響が夜まで残っている
- 呼吸が乱れている
といったことが考えられます。
とくに重要なのは、睡眠中は本来、心拍数が少し落ち着く時間であるということです。
それなのに高いまま続く、あるいは何度も急な上昇をくり返すときは、睡眠の質が落ちているサインとして考える必要があります。
睡眠時無呼吸症候群(SAS)があると睡眠中の心拍数はどうなる?
ここが今回いちばん大切なポイントです。
睡眠時無呼吸症候群では、寝ている間に呼吸が止まったり浅くなったりすることで、体の中の酸素が下がります。
すると体は危険を感じて、呼吸を再開させようと交感神経を強く働かせます。その結果、心拍数や血圧が上がりやすくなるのです。
つまり、睡眠時無呼吸症候群がある方では、眠っているはずなのに体は何度も緊張状態になっています。
これが一晩に何十回、何百回とくり返されることで、
- 睡眠中の心拍数が高めになる
- 心拍数の上下が大きくなる
- 呼吸が乱れたあとに心拍数が急に上がる
- 朝起きても疲れが取れない
といったことが起こります。
「寝る前の心拍数が高い」「睡眠中の心拍数も高め」「いびきもある」という組み合わせは、睡眠時無呼吸症候群を疑う大きなヒントになります。
こんな症状があるときは睡眠時無呼吸症候群に注意
心拍数の数字だけで睡眠時無呼吸症候群を診断することはできません。
ただし、次のような症状がある場合は、一度検査を考えたほうが安心です。
- 大きないびきをかく
- 家族に呼吸が止まっていると言われた
- 朝起きたときに頭痛がある
- 朝、口が乾いている
- 寝ても疲れが取れない
- 日中の眠気が強い
- 会議中や運転中に眠くなる
- 夜中に何度も目が覚める
- スマートウォッチで夜間の心拍数上昇が目立つ
これらが重なる場合は、単なる心拍数の問題ではなく、睡眠中の呼吸の異常が背景にある可能性があります。
スマートウォッチの心拍数データはどこまで参考になる?
スマートウォッチは、夜間の心拍数の傾向を知るうえでとても便利です。
ただし、医療機器ではないため、装着位置のずれや体動などで誤差が出ることがあります。ですから、1回だけの異常値に振り回されすぎないことが大切です。
参考にしたいのは、次のような点です。
- 一晩の平均心拍数
- 最低心拍数
- 上下の幅
- 急な上昇が何度もあるか
- 数日から数週間続いているか
また、数値だけでなく、
- 飲酒した日か
- ストレスが強かったか
- 発熱や体調不良があったか
- いびきや眠気があるか
といった背景も一緒に振り返ると、原因を考えやすくなります。
寝る前の心拍数を整えるためにできること
寝る前の心拍数が高い原因が生活習慣にある場合は、寝る前の過ごし方を見直すことで改善することがあります。
寝る前の刺激を減らす
- スマホやパソコンを長く見ない
- 強い光を避ける
- 深呼吸や軽いストレッチをする
- 考え事を寝床に持ち込まない
こうした工夫は、副交感神経が働きやすい状態を作る助けになります。
飲食や入浴のタイミングを見直す
- カフェインは夕方以降控える
- 寝酒を習慣にしない
- 夕食は遅くなりすぎないようにする
- 入浴はぬるめで短めにする
これだけでも、寝る前の心拍数が落ち着きやすくなる方がいます。
睡眠時無呼吸症候群が疑わしい場合は自己流で済ませない
体重管理、横向き寝、鼻づまり対策、節酒などは、睡眠時無呼吸症候群の悪化を防ぐ助けになります。
ただし、すでに無呼吸がしっかりある場合は、生活習慣の見直しだけで十分とは限りません。
睡眠時無呼吸症候群が疑われる場合は、自宅で行う簡易検査や、必要に応じた精密検査で状態を確認し、その結果に応じてCPAP療法やマウスピースなどの治療を考えていくことが大切です。
寝る前の心拍数が高いときの受診の目安
次のような場合は、一度医療機関で相談することをおすすめします。
- 寝る前の心拍数が高い状態が何日も続く
- 睡眠中の心拍数が高めで下がりにくい
- 夜間の急な上昇が何度もある
- 大きないびきや呼吸停止を指摘されている
- 日中の眠気が強い
- 起床時の頭痛や口の渇きがある
- 動悸、胸の違和感、脈の乱れを感じる
- 息苦しさ、めまい、失神しそうな感じがある
特に、いびき・日中の眠気・夜間の高心拍がそろっている場合は、睡眠時無呼吸症候群の可能性を考えたいところです。
病院ではどんな検査をするの?
症状に応じて、医療機関では次のような検査を行うことがあります。
- 心電図
- ホルター心電図(24時間心電図)
- 血液検査(貧血、甲状腺など)
- 睡眠時無呼吸症候群の簡易検査
- PSG(睡眠の精密検査)
ホルター心電図や睡眠の検査は入院せずに自宅で行うことができます。
原因がはっきりすると、必要な対策も具体的に決めやすくなります。
まとめ
寝る前の心拍数が高いと、不安になるのは自然なことです。
ただ、実際にはストレス、カフェイン、飲酒、食事、入浴、体調不良など、日常の中の要因で変動することも少なくありません。まずは数字だけに振り回されず、普段の自分との違いを見ることが大切です。
一方で、睡眠中の心拍数が高いまま続く、夜間に何度も急に上がる、いびきや日中の眠気があるといった場合は、睡眠時無呼吸症候群が関係していることがあります。
睡眠時無呼吸症候群では、眠っている間に呼吸が乱れ、そのたびに体が緊張状態になり、心拍数が安定しにくくなるからです。
心拍数のデータは、体からの小さなサインを見つけるきっかけになります。
「最近なんとなく疲れが取れない」「いびきも気になる」「夜の心拍数も高めで続いている」という方は、どうぞ抱え込まずにご相談ください。睡眠は、毎日の体調を支える大切な土台です。
これからも地域の皆さまが安心して眠り、元気に過ごせる毎日につながるよう、わかりやすい情報をお届けしていきたいと思います。